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日本が誇る藍染文化から、ことわざを学ぼう!
『日本近代経済の父』と呼ばれる渋沢栄一氏の生涯を描いた2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』ですが、
渋沢氏は、武蔵国榛沢郡血洗島村(現・埼玉県深谷市血洗島)で、主に藍玉の製造販売を生業とする農家に生まれ育ちました。
藍玉とは、藍の葉を加工して作られる天然の染料で、ジャパンブルーと讃えられる日本の藍染を支えてきました。
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全国的には現在の徳島県の阿波藍が最上級品とされていましたが、渋沢氏の故郷の武州藍もそれに引けを取らないほどの一級品でした。
渋沢氏は幼い頃から父と共に、信州や上州まで武州産の藍玉を売り歩き、原料となる藍葉の仕入れ調達を行うなかで商才を開花させたと言われています。
商売の流れとしては、原料となる藍葉を調達し、加工して作られた藍玉は『紺屋(こうや)』と呼ばれる染物屋に卸すわけですが、渋沢氏が生まれた江戸時代には藍染の技術は飛躍的に向上し、江戸の町を中心に日本中が藍色に溢れ、紺屋は大変繁盛していました。
そんな時代背景から生まれたことわざがありますので、ここで紹介していきたいと思います。
今日のことわざ『紺屋の白袴』
紺屋の白袴(こうやのしろばかま)
意味 ・・・ 他人のために忙しく、自分のことには手が回らないということ。また、いつでもできるにもかかわらず、放置しておくこと。
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『紺屋の白袴』の意味、由来
まず、『紺屋』とは、江戸時代に『染め物屋』を指した言葉になります。
江戸時代には藍玉を原料とした藍染が大流行しており、着物、作業着(作務衣)などの衣服から、暖簾やのぼり、寝具に至るまで、人々の生活は藍色に溢れていました。
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また、藍染の技術が向上したことで仕事は複雑になっただけでなく、流行にも対応する必要があり、紺屋は多忙を極めていました。
その忙しさは、お客さんの注文の品を染めるばかりで自分の着物を染める暇がなく、いつも染める前の白い袴を着ているほどでした。
このことから『紺屋の白袴』とは、
他人のために忙しく、自分のことには手が回らないということ。また、いつでもできるにもかかわらず、放置しておくこと。
という意味になったのです。
また、一説には、染物を扱いながらも、少しも汚さないという職人の気質、心意気に由来するという見方もあるようです。
古くは、『三十二番職人歌合』(1494頃)に、
材木売の歌 ー 紺かきの白袴などいふたぐひなるべし
紺かき ・・・ 紺屋の古い呼び方
という歌があり、ここから派生して生まれたものだと考えられます。
※三十二番職人歌合 ・・・ 職人を左右に分かち歌を競わせ、判者が優劣を決める中世に制作された職人歌合(うたあわせ)
※歌合 ・・・ 歌人を左右2組に分け、短歌を出し合って優劣を決める文学的な遊戯。
『紺屋の白袴』の類義語、対義語
医者の不養生(いしゃのふようじょう)
意味 ・・・ 人に養生を勧める医者が、自分は健康に注意しないことから、 正しいとわかっていながら自分では実行しないことのたとえ。
易者身の上知らず(えきしゃみのうえしらず)
意味 ・・・ 他人のことはわかっても自分のことはわからないことのたとえ。
髪結い髪結わず(かみゆいかみゆわず)
意味 ・・・ 他人のために技術を使うばかりで、自分のことに手が回らないことのたとえ。
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我田引水(がでんいんすい)
意味 ・・・ 他人のことを考えず、自分に都合がいいように言ったり行動したりすること。
※正確な対義語とは言えませんが、自分のことばかり関gは得て行動するという観点から、挙げておきます。
こんな場面で使おう!『紺屋の白袴』を使った例文
・弟の宿題を手伝ってばかりいたせいで自分の宿題が間に合わないなんて、紺屋の白袴だ。
・上司からはたくさんの仕事を押し付けられ、部下の面倒を見なければならず、自分の仕事に全く手が付けられない。中間管理職とは、まさに紺屋の白袴のようだ。
・彼は人が好過ぎるので、頼まれれば何でも快く引き受けてしまう。紺屋の白袴にならなければいいのだが・・・。
・自分の家は直すべきところばかりなのに、大工として土日も休まず働く私を紺屋の白袴と笑う人もいるが、それだけ仕事があることに遣り甲斐を感じている。
・ラーメン屋が繁盛するのはいいが、自分の食事を作る暇も気力もなく、カップラーメンばかり食べている私は、まさに紺屋の白袴だ。
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『紺屋の白袴』を英語で表現すると?
英語にはこれらの比喩的表現があります。
The shoemaker’s son always goes barefoot.
(靴屋の息子はいつも裸足だ。)
The cobbler’s wife goes the worst shod.
(靴直しの女房は世間で一番ひどい靴を履いている)
The tailor’s wife is worst clad.
(仕立屋の妻は最もひどい服を着る)
時代ごとの多忙な職業が、たとえとして使われているようですね。
まとめ
日本が誇る藍染の技術ですが、一口に藍色と言っても、淡い水色から黒に見えるほど濃い紺色まで、「藍四十八色(あいしじゅうはっしょく)」と分類されるほどの繊細な色味を実現します。
そして、その鮮やかな色彩、熟練された技術は明治時代に日本を訪れた外国人から『ジャパンブルー』讃えられるほど芸術的なものでした。
それも『紺屋の白袴』という言葉が浸透するほどに、必死に働き、腕を磨き、技術を向上させた職人たちの努力の賜物でしょう。
開催自体には未だ賛否ありますが、間近に控えた2021年東京オリンピック・パラリンピックでは、藍色の一つである『かち色』のユニフォームを着た選手たちが、日本の誇りと共に大活躍してくれることでしょう。