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田中邦衛さんを偲んで、名作ドラマ『北の国から』の名場面、名台詞からことわざを学ぼう!
先日に引き続き、名作ドラマ『北の国から』の名場面、名台詞から、ことわざを学んでいきましょう。
1992年に放送された『北の国から 92~巣立ち~』での田中邦衛さんと菅原文太さんとの名場面においても、名言が生まれました。
欲求と成り行きで関係を持ってしまった裕木奈江さん演じる女性を妊娠、中絶させてしまった純は、連絡を受けて北海道から飛んできた五郎と共に、女性の叔父である菅原文太さんのもとへ謝罪に行きました。
そこで、北海道から持参した南瓜を差し出し、畳に頭をこすりつけて謝罪の言葉を述べる親子に対して、
菅原文太さんはこう言いました。
「恥をしのんで産婦人科を調べて、ひとりで出かけて、診察台にのる。本気で想像しろ!あんたにとっては、こうやっとることが精一杯の誠意かもしれんが、こっちからはそうはとれん」
続いて、
『誠意ってなにかね?』
と問いかけました。
五郎も純も、胸を抉(えぐ)られるような問いかけに、言葉が出てきませんでした。
菅原文太さんは、妊娠・中絶した女性の叔父で、その女性の父親の弟でした。
彼は、兄がこのことを知ったら、どのように思うだろうか?どれほどに苦しむだろうか?と何度も想像したとも言いました。
だから、あんたも想像してくれと。
自分では精一杯の誠意のつもりでも、相手の立場に立って、気持ちを想像し、理解できていなければ、それは本当の誠意ではないということだったのでしょう。
その後、自らの甘さを思い改めた五郎は、ログハウスを建てるためにコツコツ切って加工していた自分の全財産ともいえる丸太の木を売ってお金を工面して、精一杯の謝罪を気持ち(誠意)と共に現金書留で送りました。
菅原文太さんは、それを『誠意』としてだけ受け取り、お金は返しました。
そして、純を介して和解したのでした。
『せいいって、なにかね?』
たった9文字の言葉が、五郎、純の親子の胸を深く抉り、心を動かしたのは言うまでもありません。
まさに、〇〇〇〇〇〇とは、このことでしょう。
名作ドラマ『北の国から』が生んだ名言にちなんで、今日のことわざは・・・
今日のことわざ『寸鉄人を刺す』
寸鉄人を刺す(すんてつひとをさす)
意味 ・・・ 短いが鋭い言葉で人の急所をつくこと。
『寸鉄人を刺す』の意味、由来
『寸鉄人を刺す』という表現は、
中国、南宋の時代(12~13世紀)に、羅大経(らだいけい)が自身の文学評論、見聞を記録風に記した随筆『鶴林玉露(全18巻)』に見られます。
そして、『鶴林玉露―地集一』には、一二世紀の中国、南宋王朝の時代の思想家、朱熹が孔子の弟子たち(子貢、曾子)を評した言葉がこのように記述されています。
「蓋自二吾儒一言レ之、若二子貢之多聞一、弄二一車兵器一者也、曾子之守レ約、寸鉄殺レ人者也」
現代語訳としては、
博識で弁の立つ子貢は兵器を積んだ車のようだが、堅実な曾子は、寸鉄、人を殺す者なり(小さな刃物で人を殺すように、短いことばで他人を説得できる人物である)
となり、この文では曾子のことを、
短いが核心を突くような言葉で人を説得することができる者
と評しています。
この一節から、『寸鉄人を刺す』ということわざは生まれました。
ちなみに、『寸鉄』とは短剣などの小型の武器のことです。
かつては、漢文をそのまま読んで「寸鉄人を殺す」と言われることが多かったのですが、近年では、「寸鉄人を刺す」の形が主流となり、「寸鉄人を殺す」という表現は使われなくなっています。
『寸鉄人を刺す』の類義語、対義語
言い得て妙(いいえてみょう)
意味 ・・・ 巧みな表現で的確に言い表していること。
下手の長談義(へたのながだんぎ)
意味 ・・・ 話が下手なのにだらだらと長い話をすること。また、話が下手な人に限って、長い話をするものだということ。
類義語、対義語共にニュアンス的に微妙ですが、近い意味のことわざとして挙げておきます。
こんな場面で使おう!『寸鉄人を刺す』を使った例文
・彼は口数こそ少ないが、いざ口を開くと寸鉄人を刺すようなインパクトのある発言をする。
・彼女の寸鉄人を刺すかのような的を得た指摘に、私は動揺するしかなった。
・進路に迷っていた時、父からの友人の寸鉄人を刺す一言がいい助言となり、今の私がある。
・あの政治家の寸鉄人を刺す発言は、毎度のことながら見事なものだ。
・最近コメンテーターとして引っ張りだこの小説家の人気の理由は、寸鉄人を刺すような物言いにあるようだ。
『寸鉄人を刺す』を英語で表現すると?
英語にはこのような表現があります。
Words cut more than swords.
(言葉は剣よりもよく切れる。)
まとめ
言葉というものは、コミュニケーション手段だけでなく、人を勇気づけたり、励ましたり、愛を伝えたりできる人類史上最高の産物です。
その一方で、時には誤解を生んだり、人を深く傷つける凶器にもなり得ます。
何気ない短い一言が、人の人生に影響を与えるほどの力を持つこともあります。
上手く扱うことは難しいものですが、『誠意』を以って言葉と向き合っていきたいものですね。
誠意 ・・・ 私欲を離れて正直にまじめに物事に対する気持ち。まごころ。