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女子競泳二冠達成!の大橋悠依選手の水泳人生から、ことわざを学ぼう!
2021年東京オリンピックにおいて、大橋悠依選手(25歳)が、200m、400m個人メドレーを制し、日本女子競泳史上初の二冠を達成しました。
しかし、これほどの大記録を成し得た大橋選手ですが、これまでの水泳人生を振り返ると、決して順風満帆とは言えない過酷な道のりだったそうです。
フィジカルが大いにものを言う競泳界において、特に女子選手の場合は、岩崎恭子さんが14歳で金メダルを獲得したように、若いうちに全盛期を迎える傾向が強くあります。
実際にほとんどの代表選手が中学・高校のうちに頭角を現し世界の舞台で戦います。
そんな世界で、大橋選手は明らかに遅咲きのタイプで、中学、高校と全く無名の選手でした。
また、大学2年生で迎えた2015年4月の日本選手権の200m個人メドレーでは、出場40人中40位に終わったという苦い経験もしています。
そんな『鳴かずぼ飛ばず』の不遇の時代を乗り越えての偉業達成には、驚きを越えた大きな感動がありました。
というわけで今日のことわざは・・・
※一般的に『鳴かず飛ばず』という表現には、ぱっとしないとか、結果が出ないというようなネガティブなニュアンスが強くありますが、言葉の由来、本来の意味を考えると素晴らしい表現ですので、是非、最後まで読んでくださいね。
今日のことわざ『鳴かず飛ばず』
鳴かず飛ばず(なかずとばず)
意味 ・・・ 長い間、これといった活躍をせず、結果を出さずにいるさま。また、実力を発揮するまでにじっと機会を待っているさま。
『鳴かず飛ばず』の意味、由来
一般的に『鳴かず飛ばず』という表現には、ネガティブなニュアンスが強くあり、現代ではそちらの意味の方が先行してしまっていますが、
実力を発揮するまでにじっと機会を待っているさま。将来の活躍に備えて行動を控え、機会を待っているさま。
というポジティブな意味も併せ持つ表現になります。
そして、その本来の意味は、司馬遷が著した中国の歴史書『史記ー卷40 (楚世家)』にある故事(逸話)に由来しています。
かんたんに要約しますと・・・
紀元前七世紀、春秋時代の中国でのことです。
楚の国王・荘王は、即位してから三年間、注意をする家臣がいれば処刑すると公言してまで、自らの責務を怠って国政には全く関与することなく遊び惚けていました。
そんななか、国の将来を思う勇敢な伍挙(ごきょ)という家臣が荘王に、
「丘の上に鳥がおりますが、三年もの間、飛びもしなければ鳴きもしません。何という鳥なのでしょう」
と謎かけのように問いました。
すると荘王は、
『その鳥は飛ばなければそれまでだが、ひとたび飛べば天までにも昇るだろう。三年鳴かないが、ひとたび鳴けば世の人々を驚かすだろう』
と上手くばぐらかすように答えました。
伍挙の目的は、荘王と鳥の姿を重ね合わせることで、怠惰な生活を改めてもらうことだったのですが、その後も荘王の怠け癖は一向に改善しませんでした。
それを見兼ね、国の行く末を案じた蘇従(そしょう)という家臣が、ついに決死の覚悟で荘王の自堕落な日常について進言しました。
『命は惜しくはないのか?』
と詰め寄る荘王に蘇従は、
『私の命で王が目を覚ましてくださるのなら、本望です』
と答えました。
すると、その時ついに、荘王はこれまで三年間の行動の真意について打ち明けたのです。
実は、荘王はこの三年間、怠けたふりをして、家臣たちを見定め、本音を探ろうとしていたのでした。
また、そのなかから国の将来を思う有能な家臣を見つけ出そうしていたのです。
そして、そんな家臣たちと共に国を立て直す機会に備えていたということだったのです。
その後、荘王は伍挙や蘇従たちのように信頼のおける家臣たちと国政に取り組み、歴史に残るほどの名君主となったのでした。
この故事にある鳥の謎かけの問答から、『鳴かず飛ばず』とは、
将来の活躍に備えて行動を控え、機会を待っている様子。実力を発揮するまでにじっと機会を待っている様子。
という意味を持つ故事成語になったのでした。
ですが、それが長い年月に渡る言い伝えによる間違いや勘違いにより意味が転じて、
長い間、これといった活躍をせず、結果を出さずにいるさま。
というネガティブな意味も併せ持つようになっていったのでした。
そして、残念なことに現代の日本では、圧倒的にネガティブな意味合いとして認識されてしまっています。
また、『三年飛ばず鳴かず』『三年鳴かず飛ばず』などともいわれます。
『鳴かず飛ばず』の類義語、対義語
鳴りを潜める(なりをひそめる)
意味 ・・・ 声や物音をたてずに静かにすること。表立った活動をしていないこと。
梲が上がらない(うだつがあがらない)
意味 ・・・ なかなか思うように出世しないこと。生活がよくならないこと。
立身出世(りっしんしゅっせ)
意味 ・・・ 世に出て認められること。社会的に高い地位や名声を得ること。
こんな場面で使おう!『鳴かず飛ばず』を使った例文
・鳴かず飛ばずの不遇の時代を乗り越えた彼には、人間としての深みを感じる。
・私の父は新人文学賞を受賞して華々しい小説家デビューを飾ったものの、その後は鳴かず飛ばずで、今では実家の家業を継いでいる。
・プロ野球界において、ドラフト一位で入団した選手が鳴かず飛ばずのまま終わることは珍しい話ではない。
・恩師との出会いが、私のそれまでの鳴かず飛ばずの人生を劇的に変えた。
・画家志望の彼は、いつか自分が認められる日が来ると信じて、鳴かず飛ばずで地道に創作活動を続けている。
比喩的な表現ではありませんが、
lie low ・・・ じっとしている、機会をうかがう
動詞として、横たわる、嘘をつく、など以外にも、~の状態にある という意味もあり、低い状態にある、つまり、『lie low』で、じっとしている。機会をうかがうというニュアンスになります。
remain inactive ・・・ 不活発でいる
remain ・・・ そのままの状態でいる、残る、とどまる
active(活発な、アクティブな)の対義語の『inactive』を使って表すこともできます。
まとめ
長い間、思うような結果が出せず、辛く苦しい日々を送ってきた大橋選手ですが、そんななかでも地道な努力を続けながら実力を発揮する機会を待ち、ついに最高の晴れ舞台、東京オリンピックにおいて、
天まで昇るほどに飛び立ち、世の人々を心を震わせるほどの美声で鳴いていましたね。
暗い話題ばかりの時期に、五輪史に深く刻まれる名場面をリアルタイムで見れたことを幸せに思います。