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映画『モンスターハンター』の世界からことわざを学ぼう!
日本のゲームメーカー、カプコンから2004年にリリースされて以降、多くのシリーズが発売され、全世界累計6600万本超を売り上げた大ヒットゲーム『モンスターハンター』が、ハリウッドで実写化され話題となっていますね。
製作指揮をとったポール・W・Sアンダーソン監督は、
「ゲームの素晴らしい環境を忠実に再現することで敬意を払いたいと思った」
と、CGを駆使するのではなく、実際に人も住めない過酷な秘境でロケを行い、「モンハン」の壮大な世界をリアルに再現することを追求したと語っていました。
まさに、映画館の大きなスクリーンで大迫力を味わいたい作品ですね。
では、お節介なようですが、かんたんにあらすじを・・・。
女性隊長のアルテミス率いる国際連合軍は、巨大な砂嵐に巻き込まれてしまいます。
そして、砂嵐が去った後、彼らの眼前に現れたのは、未知なる世界の光景・・・
さらには、近代兵器も通用しないありえないサイズの超巨大モンスター!!
そこはまさに『弱肉強食』の世界だった。
というわけで、今日のことわざは・・・
今日のことわざ『弱肉強食』
弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)
意味 ・・・ 弱い者が強い者の餌食になること。また、弱い者を犠牲によって強い者が繁栄すること。
『弱肉強食』の意味、由来
『弱肉強食』とは、中国唐代中期を代表する文学者・韓愈が、旅立つ僧侶の文暢に向けて書いた送別の辞『送浮屠文暢師序』にある詩の句に由来します。
『送浮屠文暢師序』には、
夫鳥俛而啄
鳥はうつむいて餌をついばみ、
仰而四顧
首をあげて四方を見まわす。
夫獸深居而簡出
獣は深い山奥に栖んで(棲んで)いて、時に出て来て食物をさがす。
懼物之為己害也
他の動物が自分を害するかもしれないと懼れる(恐れる)のである。
猶且不脫焉
そのように注意を払っても害をまぬがれず、
弱之肉強之食
弱いものの肉は、強いものの食物なのである。
このようにあり、要約すると・・・
鳥や獣などの自然界の生物は、いつ自分より強い生物に食べられてしまうのかと、恐怖を感じながら生きている。
だが、いくら注意していても、弱いものが強いものによって食べられてしまうという自然の摂理からは、免れることはできないものだ。
という意味になります。
コオロギやバッタなどの小さな昆虫は、より強いカエルなどに食べられ、
カエルは蛇などに食べられてしまいます。
そしてカエルを食べる蛇は鷹や鷲などの屈強な猛禽類たちに捕食されます。
食べられる側の生物は、どんなに注意しようが、自然の摂理(食物連鎖)からは逃れることはできません。
つまり、『弱い生物の肉は強い生物の食物になる』ということになります。
そして、この文の総括となる最後の句、
弱之肉強之食
を漢字四文字で『弱肉強食』と表し、
弱い者が強い者の餌食になること。また、弱い者を犠牲によって強い者が繁栄すること。
という意味の表現が生まれました。
ですが、この後さらにこのように続きます。
今我與文暢安居而暇食
今わたしも文暢も安らかに暮らし、ゆっくりと食事をし、
優遊以生死
余裕を持ってのんびりと生きて、死んでいく。
與禽獸異者
獣や鳥などとは違い、安らかに暮らすことができる。
寧可不知其所自耶
その拠ってくるところを知らないでよいだろうか。
つまり、韓愈が本当に伝えたかったことは、
動物たちは食うか食われるかの厳しい世界で生きている一方で、人間は何のお蔭で安らかにのんびり暮らすことができているのだろうか。それを知らないでいいのだろうか。
ということで、自然界と人間社会との違い、平穏な人間社会への敬意や感謝の気持ちだったのです。
韓愈は、平穏に暮らす人間との対比として、自然界の厳しさを例に挙げていますが、彼としてはそれ以上に伝えたいこと(安らかに暮らせることへの敬意)があったわけですね。
ですが、
弱之肉強之食
という一句の字面の良さやインパクトの強さからか、自然界の生存競争の厳しさを表現した、『弱肉強食』という言葉だけが先行して浸透していったのでした。
さらには、現代では韓愈の想いに反して、自然界だけではなく、人間社会においても、『弱肉強食』という言葉は使われるようになっています。
『弱肉強食』の類義語、対義語
自然淘汰(しぜんとうた)
意味 ・・・ 自然の状況、環境に適した生物のみが残り、そうでないものは滅びるということ。
適者生存(てきしゃせいぞん)
意味 ・・・ 生物は、環境に適したものが生き残り、適していないものは滅びるということ。
優勝劣敗(ゆうしょうれっぱい)
意味 ・・・ 優っているものが勝ち、劣っているものが敗れるという道理。
共存共栄(きょうぞんきょうえい)
意味 ・・・ 自他ともに生存し、ともに繁栄すること。
柔よく剛を制す(じゅうよくごうをせいす)
意味 ・・・ 弱い者が、強い者を負かすこと。
こんな場面で使おう!『弱肉強食』を使った例文
・弱肉強食といえば残酷な響きがあるが、それは自然界のバランスや生態系を保つためには必要なことである。
・現代の弱肉強食の社会では、企業間の合併、吸収は当たり前のことだ。
・サッカー選手としての能力は申し分ないだろうが、気の弱い彼が弱肉強食のプロの世界で生きていけるだろうか。
・我々中小企業は、弱肉強食の業界で勝ち残るために、ライバル企業との差別化を図ることは必須条件だ。
・一見華やかに見える芸能界だが、現実は弱肉強食の厳しい世界である。
・弱肉強食の頂点に立つ猛獣の中にも、地球環境の変化や獲物の減少によって絶滅の危機に瀕している種もある。
『弱肉強食』を英語で表現すると?
英語にはこれらのような比喩的な表現があります。
The law of the jungle.
(ジャングルの掟)
The great fish eat the small.
(大きな魚が小さな魚を食べる。)
The weakest goes to the wall.
(一番弱い者は壁に追いやられてしまう。)
まとめ
最後にこのようなことを言ってしまうと矛盾を生じてしまいますが、
矛盾(むじゅん)
意味 ・・・ つじつまが合わないこと。話が前後で食い違うこと。
『弱肉強食』という言葉に相反して、自然界においても、人間界においても、常に力の強いものが生き残ってきたわけではありません。
自然界においては、適応能力が高い生物が生き残り、変化に対応して進化できなかった生物は次々と滅んでいきました。
また、人間界では、『強さ = 優しさ』という言葉だってあります。
また、柔よく剛を制す という言葉のように、人間は力の劣勢を補う知恵と技を持っています。
さぁ、映画『モンスターハンター』では、どちらに軍配が上がるのでしょうか?