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人気ドラマ『ドラゴン桜』の裏切りから、ことわざを学ぼう!
2021年6/27に最終回を迎える人気ドラマ『ドラゴン桜』ですが、東大専科の生徒たちが合格に向けて必死に頑張っているなか、前理事長らによる学園売却の計画が発覚しましたね。
そして、東大専科の教師を呼び寄せた元同僚の及川光博さん演じる高原教頭も売却に加担しており、始めから絵図が描かれていたという事実に驚いた方も多いことでしょう。
東大専科の教師たちは、極めて偏差値の低い高校の生徒を東大へ入学させるために基礎から教え込み、勉強だけでなく生きていくうえで大切なことを必死に教えてきたのを傍で見ていたにもかかわらず・・・。
まさに『恩を仇で返す』というやつですね。
というわけで今日のことわざは・・・。
今日のことわざ『恩を仇で返す』
恩を仇で返す(おんをあだでかえす)
意味 ・・・ 恩を受けた人に対して、感謝や恩返しをするどころか、かえってその人に害を加えるような行為をすること。
『恩を仇で返す』の意味、由来
まず、『恩』とは、人から受けた感謝すべき行為、
『仇』とは、敵(かたき)、恨みなどを表す言葉ですが、ここでは、危害、害をなすものを意味します。
つまり、人から受けた恩(感謝すべき行為)を、仇(危害を与えること)で返すということになります。
それから転じて、『恩を仇で返す』とは、
恩を受けたなら感謝こそすべきなのに、それどころか相手にとって害になるような行為をすること。
という表現になります。
正確な由来については、はっきりしていないようですが、仏教用語に『恩を仇で返す』とは反対の意味の『報恩(ほうおん)』という言葉があります。
報恩 ・・・ 恩にむくいること。恩返し。
また、老子は、『老子・六三章』において、
「怨みに報ゆるに、徳を以てす」
人にひどい仕打ちを受けても怨んで報復するのではなく、逆に恩恵を与えるほどの温かい心で接すること。
と、
孔子も、論語の『憲問第十四の三十六』において、
「直きを以て怨みに報い、徳を以て徳に報ゆ」
恨みのある者に対して、仕返しするのではなく、逆に恩徳を施すということ。
と残しています。
日本でも、平安後期の説話集である『今昔物語』に、
「仇を恩を以て報ゆ」
恨むべき相手に対し、逆に情けをかけること。
という『恩を仇で返す』とは全く反対の意味表現が見られます。
ここからは私の推測になりますが、真逆の意味を持つこれらの表現に倣って、恩知らずな人間のことを揶揄したり、自他の行動を戒めたりすることわざとして自然発生的に生まれたのではないでしょうか。
また、時間軸においては、かなり後になりますが、1593年にイエズス会天草学林によって、『天草本伊曾保』というタイトルで刊行されたローマ字綴の日本文イソップ物語にある『鹿と蒲萄の事』という寓話に、
「Vonuo(ヲンヲ) atavo(アタヲ) motte(モッテ) fôzureba(ホウズレバ)」
とあります。
イエズス会 ・・・ カトリック教会の男子修道会。日本に初めてキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルらによって創設されたキリスト教、カトリック教会の男子修道会。
日本文イソップ物語『天草本伊曾保』ー鹿と蒲萄の事ー
ここでかんたんに『鹿と蒲萄の事』のあらすじを紹介しておきます。
ある日、猟師に追われた鹿が、ブドウの木の陰に隠れました。
猟師は鹿が隠れていることに気付かず、ブドウの木を通り過ぎて行きました。
「やれやれ、助かった」と一安心した鹿は、ブドウの葉を食べ始めました。
「ガサガサ」と、ブドウの葉が音を立てて揺れます。
その音を聞いた猟師は、風もないのにブドウの葉が揺れていると振り返りました。
そして、さっきの鹿がブドウの木の陰に隠れていると察した猟師は銃を放ち、それが命中した鹿は死んでしまいました。
死ぬ前にシカは、こう言いました。
「わたしが殺されるのは当然のことかもしれない。こんなにひどいことをしてしまったのだから。自分を助けてくれたブドウ木の葉っぱを食べるなんて・・・」
この寓話は、恩を受けた人に対して悪い事をするような者には、ひどい仕打ちが待っているという教訓、戒めを表しているのです。
そして、『天草本伊曾保物語』では、
「Vonuo(ヲンヲ) atavo(アタヲ) motte(モッテ) fôzureba(ホウズレバ)」
と表現しているのです。
このことから、『天草本伊曾保物語』刊行当時(1593年)には、『恩を仇で返す』ということわざは使われていたと考えられますね。
『恩を仇で返す』の類義語、対義語
後足で砂をかける(あとあしですなをかける)
意味 ・・・ 人から恩を受けたのに、それを裏切り、さらに迷惑をかけたり、恩知らずなことをしたりすること。
庇を貸して母屋を取られる(ひさしをかしておもやをとられる)
意味 ・・・ 親切にしてあげた相手から害を受けるたとえ。
飼い犬に手を噛まれる(かいいぬにてをかまれる)
意味 ・・・ 普段からかわいがり、世話をしてきた人から裏切られたり、害を受けたりすることのたとえ。
仇を恩で報ず(おんをあだでほうず)/恩を以て怨みに報ず(おんをもってうらみにほうず)
意味 ・・・ 恨む相手に対し逆に情けをかけること。
怨みに報ゆるに徳を以てす(うらみにむくゆるにとくをもってす)
意味 ・・・ 恨みのある者に対して、仕返しするのではなく、逆に恩徳を施すということ。
こんな場面で使おう!『恩を仇で返す』を使った例文
・手の付けられない不良だった私に手を差し伸べ、ここまで育ててくれた社長に恩を仇で返すような真似は絶対にできない。
・銀行という組織は、こっちが調子のいい時には金を借りてくれと散々頼み込んでくるくせに、いざ困ったときには全く融資してくれない。恩を仇で返すとは、まさにこのことだ。
・あんなに世話になった先輩の顔に泥を塗るなんて、恩を仇で返すようなものだ。
・いくらプロ野球界の規則で、選手が勝ち取った権利だとは言っても、根気強く育ててくれた球団に対して恩を仇で返すようなFA宣言は、ファンとしては気分のいい物ではない。
・彼女に友達を紹介してもらってダブルデートを企画してやったのに、俺の彼女の方に手を出そうとするなんて、あんな恩を仇で返すようなやつはもう友達なんかじゃない。
『恩を仇で返す』を英語で表現すると?
英語にはこれらの比喩的表現がります。
The axe goes to the wood where it borrowed its helve.
axe ・・・ 斧 helve ・・・ 〔おの・金づち・武器などの〕柄
直訳:(斧は自分に柄を貸してくれた森へ行く)
※斧の刃は鉄でできていますが、柄は森の中にある木からできていますよね。
Don’t bite the hand that feeds you.
直訳:(食事を与えてくれる手を噛むな)
まとめ
私自身、なかなか『恩を仇で報ず』ような立派な人間にはなれませんが、恩を受けたならば、感謝の気持ち、誠意をもって恩を返していきたいものです。
せめて、『恩を仇で返す』ことはないようにしなければなりませんね。