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『日本近代経済の父』渋沢栄一氏の商才を開花させた、『藍』から、ことわざを学ぼう!
『日本近代経済の父』と呼ばれる渋沢栄一氏の生涯を描いた2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』ですが、
一週間の終わりとなる日曜の夜に、将来の日本のために奮闘する志士たちを見て、明日への活力をもらっている方も多いことでしょう。
渋沢栄一氏は、武蔵国榛沢郡血洗島村(現・埼玉県深谷市血洗島)で、主に藍玉の製造販売を生業とする農家で生まれ育ちました。
藍玉とは、藍の葉から作られる染料で、人類最古の本格的な天然染料と言われる非常に歴史の深いものになります。
日本には約1500年前に中国から朝鮮半島を経由して伝えられ、平安時代までは宮廷や上流貴族が身に着ける高貴な色とされ、現在でも当時の染物が多数残されています。
また、一口に「藍色」といっても、熟練した加工技術によって淡い水色から黒に見えるほど濃い紺色まで、「藍四十八色(あいしじゅうはっしょく)」と分類されるほどの豊富な色味を実現します。
そして、鎌倉時代になると、藍四十八色の一つ「かちいろ」が武士たちに好まれ、衣類だけでなく鎧に使う糸にまでも使用されるようになりました。
藍には消炎や解毒、止血の薬効があることと、「かち色」が「勝ち」と結びつき、縁起がよいとされたのでした。
その後、渋沢氏が生を受けた江戸時代には、藍染の技術は大きく成長し、着物や作業着、のれんやのぼりなど、人々の生活は藍色に溢れていました。
そして、日本の藍染の技術は、明治時代に日本を訪れた外国人から『ジャパンブルー』と称えられるほど芸術的なものでした。
また、現在のサッカー日本代表のユニフォームは『侍ブルー』の名で親しまれていますが、これは、藍色『かちいろ』が使われていることに由来しています。
というわけで今日は、渋沢氏が幼い頃から父と共に、信州や上州まで藍玉を売り歩き、原料の藍葉の仕入れ調達を行うなかで商才を開花させたということに基づき、『藍』にちなんだことわざを深堀りしていきましょう。
今日のことわざ『青は藍より出でて藍より青し』
青は藍より出でて藍より青し(あおはあいよりいでてあいよりあおし )
意味 ・・・ 弟子が師匠の学識や技量を越えることのたとえ。人は努力によって、持って生まれた資質を越えることができるということ。
『青は藍より出でて藍より青し』の意味、由来
まず『藍』とは、冒頭でもお話ししたように、藍染に使う藍玉の原料となる藍の葉のことです。
そして、藍の葉で染められた布は、原料となる藍の葉よりもずっと鮮やかな青色に染まります。
実際の話、藍の葉自体は、そんなに濃い色ではないんですよね・・・。
このことを弟子(染められた布)と師匠(原料となる藍葉)との関係に置き換えて、『青は藍より出でて藍より青し』とは、
学識や技術において弟子が師匠を凌ぐ(越える)、人は努力によって生まれ持った資質を越えることができる。
という意味になります。
また、『青は藍より出でて藍より青し』とは、中国戦国時代末の思想家・儒学者である荀子の著作や発言をまとめた書物『荀子』に由来しています。
全32扁で構成された『荀子』の『荀子‐勧学扁』には、このようにあります。
君子曰、學不可以已。青取之於藍、而青於藍、冰水爲之、而寒於水。
君子いわく、学は以てやむべからず。青は之れを藍に取りて、藍よりも青し。氷は水これをなして、水よりも寒し。
現代語訳: 君子(徳が高く品位のある人、人格者)がおっしゃるには、学問には終わりはなく、継続して学び続けるものである。青い色は藍の葉から生み出されるが、それはその素となる藍よりもさらに青い。また、氷は水から作られるが、水よりもさらに冷たい。
このように荀子は、
藍の葉で染められた布が原料となる藍の葉以上に鮮やかな色になることを、人は努力によって、もともと持って生まれた素質を越えることが出来ると説いているのです。
それが転じて、、学識や技術において弟子が師匠を凌ぐ(越える)という意味になったのです。
また、日本では鎌倉時代の寺社縁起『日光山縁起』に見られる表現になります。
寺社縁起・・・寺院や神社の草創説話
『青は藍より出でて藍より青し』の類義語、対義語
氷は水より出でて水より寒し(こおりはみずよりいでてみずよりさむし)
意味 ・・・ 弟子が師匠の学識や技量を越えることのたとえ。弟子が先生を凌ぐことのたとえ。人は努力によって、持って生まれた資質を越えることができるということ。
※『荀子』にある一文の下の句に当たる表現です。
出藍の誉れ(しゅつらんのほまれ)
意味 ・・・ その道において弟子が師匠より越えるという名誉や名声のこと。
対義語としては・・・
申し訳ありませんが、適切な対義表現が見つかりませんでした。
何かあれば追記致します。
こんな場面で使おう!『青は藍より出でて藍より青し』を使った例文
・多くのオリンピック選手を輩出し、名監督と称えられた祖父は、青は藍より出でて藍より青しと、教え子たちの活躍を喜んでいる。
・師匠は亡くなる間際に『お前にはもう教えることはない。青は藍より出でて藍より青しということだ』と私に言って下さった。
・名選手は名監督にあらずという言葉があるように、青は藍より出でて藍より青しの如く、実績の乏しい指導者から偉大な選手が誕生することが意外と多いものだ。
・青は藍より出でて藍より青しというように、誰にでも可能性は無限にある。
・小さい頃から喜んで私の料理の手伝いをしてくれていた娘だが、青は藍より出でて藍より青しで、今では立派な料理研究家になっている。
『青は藍より出でて藍より青し』を英語で表現すると?
比喩的表現ではありませんが、このように表せます。
The scholar may be better than the master.
弟子が師匠に勝ることもある。
まとめ
師匠や先生と呼ばれるような人の最大のの喜びは何でしょうか?
それはきっと、自らの技術や経験を伝えた弟子や教え子たちが立派に成長し、自分を越える存在になることでしょう。
そう考えると、『青は藍より出でて藍より青し』とは、恩返しの言葉とも受け取れますね。
2021年7月現在、東京オリンピック、パラリンピックを間近に控えていますが、無観客であろうとも、たくさんの『青は藍より出でて藍より青し』を体現した最高の恩返しのドラマが見られることでしょう。